「写真を体験する」ということ|CURBON写真展裏のストーリー

2019年5月に西武渋谷店で共同開催された、「CURBON写真展 -THE STORY- 500万人と紡ぐ、写真の世界」Instagramを中心に、写真で人生が変わったアーティスト60名の作品が展示されました。
 
「写真を体験する」を裏テーマに創意工夫が施された会場。写真は白い壁に並べられるものというイメージを見事に覆す、今までに類を見ない展示方法が話題となりました。
 
今回は、その裏側で活躍したお二人に写真展の魅力、裏側で起こった様々なストーリーについてお話を伺いました。
 

写真展に込めた想い

ー他に見ない、木枠やオーガンジーなど、様々な工夫が凝らされた写真展、どういった思惑があったのでしょう。
 
ケンタ まず、来場者に感じてもらいたかったのは、「つながり」ですね。Instagram上では、自分がフォローしている人の写真が定期的に流れてくる。でも、偶発的な出会い、たまたま見かけたあの写真に惹かれた、といった新たな出会いは起こらないんだよね。
 

上記のイラストのように、自分の好きな写真を見ていると、奥に別の人の写真が見える仕様になっています。

あえて自分の頭の範囲外のものを見えるようにすることで、偶発性を生み出す仕掛けを意識しました。 

ーなぜ、「つながり」に着眼点を?
 
ケンタ 僕は、写真展を開催することは、広義の意味で、自分に関わってくれた人たちへの恩返しだと思っているんだよね。
 
モデルさん、僕の写真を見てくれている人、家族、写真家仲間、とにかく変わってくれた人達への感謝を伝えるという意味合いが大きいなあ。
 
僕は写真に救われたから、写真でいろんな人をつなげるという役割を通して、周りにいるたくさんの人が笑顔になってくれたら嬉しい。
 

もっと写真を体験してほしい

 
秀康 僕が今回意識したことは、「写真を体験する」ということです。
 
というのも、写真家の幡野広志さんという方の写真展に行った時、まさにそういった経験をしたんです。
 
彼は、余命宣告をされたがん患者で、家族がいて、まだ幼い息子さんがいます。その息子さんの写真が展示されている傍にある窓から、綺麗な光が差し込んでいて、そこから外に目をやると、なんと墓地があったんですね。
 
その時にすごい衝撃を受けました。
 
あれは、InstagramやSNS、画面上では伝えられないものでした。
 
しかも、その存在に気付く人もいれば、素通りする人もいる。自分の意識の向け方によって見えるもの、体験するものは変わるんだなあと感じました。
 
だから、今回の写真展では、あえて、他ではやらないような仕掛け、むしろ一般的にはタブーとされているようなことも取り入れました。
 
たとえば、キャプションを腰より下に配置することで、後から写真を撮った時の意図や想いを答えあわせする仕掛け。
 

本来ならば、目線の位置にあるのが一般的なんですが、先にタイトルや意図を見せるのではなく、自分で問いを立てて、最後に答えあわせをして欲しかったんです。

また、立つ、しゃがむといった動作を入れることで、全身を使って写真を感じてもらいたいなとも。

足を運び、五感をフルに使ってもらえたらいいな、と演出を考えました。

 

ケンタ 写真を体験するという文脈でいうと、写真を見る距離、角度、どういう心情で、誰と見るかって、写真展でしか体験できないよね。
 
1枚だけを見るのもいいし、ちょっと俯瞰して組み合わせを見るのもいい。
 
1人で考え事をしながら見たり、友達とおしゃべりしながら見たり。
 
写真展をやると、改めて、写真ってもっと各々の自由でいいよねと思わされるよね。
 
なんなら、こちらが意図を発信するというより、見る側が能動的に、もっと工夫して楽しんでほしいなと思ってる。
 
どうしても、InstagramやTwitterなんかのSNSだと、受動的に、浴びるように、一定間隔で流れてくる写真にいいねを押すだけ。
 
どちらがいい悪いではないけど、アナログな場にせっかく足を運んでいるからこそ、もっと自由にいろんな見方をしてもらえるような場の設計ができたらいいよね。
 
ー確かに、この間、そのお話を聞いてから別の写真展に足を運んでみたのですが、こちらが頭を使ってみると、新しい写真展の楽しみ方、みたいなのが見い出せました。写真を見るという行為は、作品を介した、アーティストと視聴者の能動的なコミュニケーションみたいなものですかね。
 
ケンタ そうそう、だから、会期中、リピーターのお客様が多かったのはとても嬉しかった。何度も足を運んでくれて、毎回いろんな見方をしてもらえる。作品数は変わらないんだけど、いくつもの感じ方をしてもらえていたら本望です。
 

写真を深める 

ー写真展は生き物だとおっしゃっていましたが、今後、写真展はどうなっていく、またはどうなっていってほしいと思いますか?
 
ケンタ 何か新しく発展するというよりは、「原点回帰」に近いのかな。どんどん深めていってほしい。これをきっかけに、写真展をやってみたいという若い世代が増えたのはとても嬉しかった。
 
プリントする用紙1枚にしても、こだわればこだわるほど、その奥が見えて行く感じ。
 
最近は、浴びるような遊びしかないと言われているけれど、まさにそうなんだよね。
 
すべて手の中に収まるスマホに遊びや思考を与えられて、何でも揃っている時代だからこそ、自分だけの楽しみ、深み、奥地、みたいなのを知ってほしい。
 
秀康 ネットネイティブな僕たちは、何でもすぐに手に入るのが当たり前。幸か不幸か、プリントして待っている時間とかやってみるとできないこととか、ひとつひとつ経験して深めていく感覚って、自分で意識しないとできないですよね。
 
ケンタ だから、個人的な想いとしては、もっと写真展の敷居を下げていけたらいいなと思う。どうしても、おじさんたちがやる堅苦しいものというイメージがあるから、この写真展みたいに、自由でいろんな人がディスカッションできて、出会いがあるような場がたくさんできたらいいよね。
 

思いを形にする方法 

ーこんな素敵な写真展を成功させたお二人ですが、どういうやりとり、役割があったんですか?
 
ケンタ 基本的に僕がフィーリングでやりたいことをバーって言って、秀康がきれいに言語化してくれる感じ。
 
秀康 とりあえず最初に「ケンタさんは癖強いよ」って言われてました(笑)
 
年齢は全然違うけれど、お互い言いたいことは言い合える関係で、とてもいいタッグが組めたんじゃないかなと。
 
本当に当日まで大変でしたけどね(笑)
 
ケンタ 病んだね(笑)
 
秀康 今回は、自分達だけじゃなく、西武渋谷店さんとのやりとり、さらに60名ものアーティストを巻き込むという、とにかくコミュニケーションが必要とされる立場でした。さらに、もともとSNS上でつながった人達なので、会ったことのない人もたくさんいたんですよね。
 
何を言ったら嫌なのか、どういう言い回しがいいかなど、オペレーションを進めるうえでも気を配った要素でした。想いを形にするには、やっぱりたくさんの人の協力があってこそだと実感しました。
 
ケンタ 結果、このポジションを任せてもらったことで、会期中はいろんな人と飲みに行けて楽しかった!(笑)
 
ー写真展は飲み会のためにあるっておっしゃってましたよね(笑)
 
秀康 まさに、「写真がくれたのは、いいねではなく繋がりだった。」
 
ケンタ 繋がり、これからも写真展だけでなく、いろんな人が参加できるようにミート(※Instagram Japanが開催していた撮影会で、インスタミートというオフ会の略。今では、自主開催されるものも含めて、ミートと呼ばれる。)とかやっていきたい!これからもどんどん面白いこと考えていきます!
 
ー最後に、写真展を開催している人に伝えたいことはありますか?
 
ケンタ 秀康 とにかく大変!(笑)
 
秀康 色々ありましたね(笑)
 
ケンタ なんてったって、最初にCURBONに依頼が来てから会期終了まで7ヶ月、半年以上費やしたんだもんね。
 
秀康 はじめ、プロジェクトマネジャーとして入った時は、本当に右も左も分からず… 。たくさんの人と時間、莫大なコストがかかりましたね。
 
ケンタ 喧嘩もしたね。秀康がクールでよかった…。
 
四方八方から連絡が来たり、いろんなことがギリギリまで決まらなかったり、とにかく規模が大きいと予想もつかないハプニングがたくさん。
 
普通は、大枠の方針が決まって、具体的な行動に落とし込んでいくんだけど、もう全てが同時進行。
 
よく間に合ったな。
 
まあ、そもそも依頼された時に想定していた規模の約10倍だったんだよね。
 
あと、僕の反省として、準備の段階で、出展するアーティストさんに、思うように情報伝達ができず、不安にさせてしまった点。
 
顔が見えない状況で、もっと安心して、のびのびと展示をしていただける環境づくりが出来ていればなと思うことが心残りです。
 
秀康 規模が大きいと、全員の熱量が一致しないことも、スムーズに進まない要因ですね。まだないものを創造する過程だったので、誰も実際に現場を見ていない、想像ができないという点で、皆さんを引っ張っていくのはなかなか大変でした。
 
ーそんな怒涛の数ヶ月間を経て、会期を迎えてどうでしたか?
 
ケンタ とにかく、会期中にもどんどんあの場が醸成されていくのを肌身で感じた。お客様の熱量もそうだし、それを支えるスタッフの皆さん。
 
主役ではなかったかもしれないけれど、本当に凄かった。
 
写真展は、作品だけでは成り立たなくて、その場にいるアーティスト、スタッフの人柄、迎えようという心意気があって決まるよ。
 
実際に、今回の写真展でのスタッフの皆さんは、初日こそ緊張していたけれど、日を追うごとに、一人で来ているお客様に積極的に話しかけたり、もっとこうしたら喜んでもらえるんじゃないかとオペレーションの改善をしてくれたり、きっと作品だけでは到底成り立たなかった場の雰囲気をつくってくれた。
 
秀康 僕はもう会期中ヘロヘロでしたが、いろんな人に助けてもらいました。「作品」と「もてなしの心」の両輪があって初めて成り立つんだなと身に沁みて実感できました。
 
ケンタ せっかく繋がったこの輪がどんどん広がっていってくれたら本当に嬉しいです。皆さん、ありがとうございました。
 
Writer:東
Photographer:コハラタケル
Illustrator:伊藤